前回は、あまたある国内の企業を一定の基準や軸に基づいて整理・分類し、その全体像を把握する方法を解説させて頂きました。
「①上場企業/未上場企業」「②大企業/中小企業」「③親会社/子会社」「④純粋持株会社/事業子会社」というキーワードが出てきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?
今後の企業研究、企業分析でも重要となってくるワードですので、しっかり復習して頂けますと幸いです。
今回は、『企業をみる視点』と題して、どのようなポイントにそって企業を評価・査定していけばよいのかを詳しく説明させて頂きます。
恋人選びと会社選びの視点
今日も質問かしら?
実は、メンズ研究を進めていて疑問に思えてきたことがあるんです!!
どうして、そう思ったの??
心理学では、そういうことを『アセスメント』って呼んでるわ!
このあとスグ!!!
以下の表は、若者カップルに「なぜその人を恋人に選んだのか」を調査した結果をまとめたものになります(渕上ら,1987)。
側面 | 回答例 |
外見 | 服のセンスがいい 容姿が美しい 髪が長い 目が美しい |
社会的境遇 | 家がお金持ち 父親が医者 家柄が良い 家族があたたかい |
一般的情報 | 家を持っている 金持ち 名前が良い |
自分への ふるまい方 | けなげな姿に感動した 告白された 好かれていた 物をもらった なぐさめてくれた 心の支えになってくれた |
他人への ふるまい方 | ひょうきん 話題が豊富 顔が広い |
他人からの評価 | みんなにうらやましがられる みんなのうわさになる |
自分の印象 や反応 | 波長が合う 一緒にいて楽しい 尊敬できる 守ってあげたい 第一印象がよかった |
性格 | 強引 やさしい ひょうきん 明るい ちゃらんぽらん |
価値観や 考え方 | 思想・価値観の一致 自分と違う考えをもっている |
能力 | 料理が上手 頭が良い スポーツ万能 遊びなれてる 話が上手い |
表の左欄『側面』が恋愛相手を選択した理由、右欄『回答例』がその具体的内容となっております。
こちらの研究では、恋愛相手を選択する決め手として、「外見」「社会的境遇」「一般的情報」「自分へのふるまい方」「他人へのふるまい方」「他人からの評価」「自分の印象や反応」「性格」「価値観や考え方」「能力」の10個の側面をあげています。
10個のうち、1つの側面(要因)が決め手となってお付き合いすることにした若者もいるでしょうし、複数の要因が決め手となりお付き合いすることにした若者もいるかもしれません。
いずれにせよ、人が異性と付き合う理由は様々に異なるけれども、それらの理由は、大ざっぱに10パターンに分類できるというのがこの研究の内容になります。
「自分へのふるまい方」のところ、分かる気がする!!
この場合、好きになってくれたから、そのお返しにその人のことを好きになりやすいってことを表しているわ!!
「好きになってくれた人が、私のタイプ」って女子、結構いますもんんね!!!
類似性仮説は、似た者同士がひかれあう、相補性仮説が、似てない者同士がひかれあう、っていう考え方ですよね!!
一緒にいて楽しいとか、波長があうとかって、私的にはとっても大事なことなんで・・・
考慮すべきポイントを全て把握した上で、何を一番重視するかを決める・・・、この方法、もしかしたら企業研究でも使えるかもしれない!!!
先生、今日も教えて下さい、企業研究の方法!!!
よろこんで教えますとも!
以下、ご一読頂けますと幸いです。
*なお、今回は、イノウ編著(2019)『世界一分かりやすい業界と職種がわかる&選ぶ本』を始めとした業界・企業研究の文献に依拠して記事を構成させて頂きました。
記事末尾の<引用・参考文献>の項に全ての出典を明記しておりますので、ご確認頂けますと幸いです。
企業をみる4大ポイント
企業を評価・査定する上で、どのような側面に着目すればよいのでしょうか?
4つ、大きなポイントがあるとされています。
それは、
A 企業力
B 働きやすさ
C 企業文化
D 成長環境
になってきます(下図をご覧下さい)。
Aは企業のハード(建物で言うところの骨組み)、Bはソフト(建物の中の住みやすさ)の側面を表していますが、いずれも社員が「安定して長きに渡って働くことができるのか」と直結した概念であると考えられます。
一方、CとDは、企業の経営方針や企業のあり方と関連してくる概念になってきます。
恋愛と同様、就活生と企業の間にも「合う/合わない」といった相性があるとされていますが、働く上での相性を大きく左右する側面がCとDの要素ではないかと思われます。
以下、A~Dのポイントを解説していきますね♪
A 企業力
Aの『企業力』とは、読んで字のごとく、企業自体が持っているチカラ(パワーやポテンシャル)を指しています。
これは、「高収益企業であるかどうか?」「成長企業であるかどうか?」「時代についていける企業かどうか?」の3つに要素に細分化されています。
a1 高収益企業かどうか?
経営が火の車の会社に入っちゃったら、リストラされたり、下手したら会社自体がつぶれちゃって、路頭に迷うことになりかねないですもんね!!
まず「高収益」の定義から説明しますね。
高収益とは、「高い利益を安定的に上げている」ということで、優良企業であるかどうかを判断するモノサシの一つとなります。
次回詳説しますが、個々の企業を見る際、注目してほしいのは「利益率」になってきます。
例えば、売上高が同じA社とB社があったとしたならば、より多くの利益を出している企業の方が評価は高くなります(←ここ、重要ポイントです!)。
一般的に、付加価値の高い商品を高値で販売できていたり、業務の効率性が達成されている場合、企業の利益率が高くなる傾向があるようです。
商社や流通関連だったら、5%もあれば十分じゃないかな?
ちなみに利益が出やすい業界や業種ってあるんですか?
よ~注意ですね・・・
企業は、売上を上げ、一方で経費を下げるっていう努力を同時に行っているんだけど、「経費を極端に下げて」いけば、利益はプラスになるわよね!!
単純に利益率だけみて判断したらいけないんですね!!
そうなんです!
利益率を見るときは、その企業が利益をどのように生み出しているのかを総合的に見ていく必要があるのです(詳しくは、次回説明させて頂きますね)。
一方、「高収益企業」とは真逆の「不振企業」とはどのようなものでしょうか?
分かりやすく言うと、企業の業績が振るわないということですが、売り上げが年々低下していっている企業、利益率が極端に低かったり借金が多い企業、そして何より赤字が連続している企業は要注意です。
いずれも企業の存続に関わる要因であり、この点を見落とすと、1年後(3年後、5年後)つぶれる会社に入社してしまうこともありえます。
企業の収益性を注視することの重要性、ご理解頂けたかと思います。
a2 成長企業かどうか?
一般的には、大企業なら年5%以上、中小企業なら年10%以上の平均成長率があれば、成長企業と言っていいんじゃないかなぁ・・・
「成長企業」については、特に多くを説明しなくとも、その定義をご理解頂けるかと思います。
成長企業の場合、事業を拡大するために支社や工場、店舗数をどんどん増やす必要がありますので、結果として新たな雇用も生まれてきます。
企業内に活気があるでしょうし、経済ニュースに頻繁に取り上げられるなどして、世間的にも注目を浴びることでしょう。
一方、成長企業の逆の意味は、「成熟企業」になってきます。
こちらは成長企業と異なり、売上や利益があまり伸びていない企業のことを指しています。
売上や利益が年々増加しないというと、あまりいいイメージを持たない読者の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは大きな誤解になってきます。
もちろん、低い利益水準で安定している(低い利益水準から抜け出せない)のであれば、いずれその企業は存続の危機にさらされることになりますが、一定以上の利益をあげ、それがずっと安定してるのであれば、それは優良企業ということになってきます(この場合、「安定性が高い企業」とも言いかえられます)。
個々の企業の利益水準が、高めで安定しているのか、低めで安定しているのか、この点を見極める必要があると思います。
と、ここまで個別の企業が「成長しているか」「成熟しているか」という視点で議論を進めてきました。
一方、成長しているか、成熟しているかということは、当ブログでも度々話題に取り上げた『業界』とも深い関係があります。
人間同様、業界にも年齢があると言われています(下図をご覧下さい)。
一般的に業界の年齢が低い場合、その業界の成長性が高くなる傾向があります。
市場ができて間もない新しい業界(例;人工知能業界)では、今後成長の可能性や余地があると言えるでしょう。
一方、業界の年齢が高い場合、その業界の成長性は低くなる傾向があります。
ただし、古い業界がダメな業界かというと、決してそうではありません。
例えば古い業界の代表格「鉄鋼」業界は、成長率は低いものの20兆円規模の業界売上をほこっています。
一定水準以上で売上が安定しているのであれば、業界年齢が高かったとしても「優良業界」と判断することが可能でしょう。
業界と企業の売上は連動する傾向(業界の売上が上がれば、その業界に属する個別の企業の売上も上がる)がありますが、時代的に厳しい業界や成熟した業界でも、種々の企業努力により売上・利益増を達成している優良企業があることも事実です。
業界の動向をおさえることの重要性は以前の記事でも強調させて頂きましたが、最終的には個別の企業の「実力」を慎重に吟味していく必要があろうかと思います。
a3 時代についていける企業か?
「高収益も」や「成長性」に関係する売上や利益って、数値で分かりやすく表現できるもんね!
ぶっちゃけ、どういう企業が時代についていけるんですか?
はい、説明させて下さい。
今後、激化していく国内外での競争に耐えうることができるかが、「時代についていけるかどうか」を切り分けてきます。
国内での競争では、消費者やクライエント企業のニーズを的確にくみ取り、魅力的で付加価値の高い商品や商材を提供していけるかどうかが鍵になっていきます。
またニーズは時代とともに目まぐるしく変化していくものですので、そうしたトレンドを予測して(先ドリして)、競合他社にはない新しいモノなりサービスを提供できるかも重要になってくるものと考えられます。
またご承知の通り、経済はグローバル化しています。
市場が海外へ拡大している分野では、グローバル競争(国際競争)に勝てるかどうかも、企業の収益性や成長性を大きく左右してくるものと思われます。
国際展開が遅れている企業、国際展開をしているものの、中国などのアジア勢の前に結果を出せないでいる企業は、今後業績が悪化していき、統廃合の対象となることも予想されます。
一口に競争力といってもその内容は、業界・業種によって異なりますので、そのポイントを以下の表にまとめさせて頂きました。
志望企業の競争力を評価・査定する際の参考にして頂ければ幸いです。
<耐久消費財メーカー> 魅力的な商品を開発するために、高い技術力や優れた企画力が必要になる。また長期間利用する製品の性質上、品質管理や計画生産も重要になる。 グローバル競争が激しく、グローバル競争に負けると一気に業績が悪化するリスクがある。 規模の大きいメーカーの多くは、事業の多角化を進めている。現在業績を回復させているメーカーは、主力をインフラ事業、住宅事業、半導体事業に移行させている。 |
<生活用品メーカー> 消費者の好みやライフスタイルを把握した上で、時代に合った商品を開発する必要がある。 商品の購入頻度が高くて、移り気な消費者を相手にしているため、マーケティングや商品企画が肝要になる。商品の陳列状況が売り上げを左右するため、販促も重要になる。 国際的には中堅クラスの企業が多いため、グローバル競争が激しくなると、海外展開の度合いで「勝ち組」「負け組」にはっきり分かれてしまうことも考えられる。 |
<原料部品メーカー> 原料や部品の様々な機能や特性を実現させ、自社製品の魅力を高めることが求められる。顧客企業のニーズをくみとる力も重要になってくる。 国際競争に負けると一気に業績が悪化するリスクがある。例えば半導体分野では、韓国や米国との国際競争に負けて、業界再編が起こっている。 |
<機器・機械メーカー> 高品質、高耐久が求められる。様々な部品、資材を精密に組み立てるので、研究や技術だけでなく、品質管理や部品調達なども重要。顧客と関係を築いて、ニーズをくみ取る力も必要になる。 低価格帯では中国などの国際競争が激しくなりつつあり、半導体製造機械、工作機械などの業界では、業界再編も起こっている。 |
<小売業者> 国内市場規模縮小で海外展開する企業もあるものの、苦戦している企業も多い。 |
<商社> 為替相場や資源・原油価格の変動に大きな影響を受ける。 国際競争が今後さらに激しくなるため、成長性は企業によって分かれてくることが考えられる。 |
<サービス事業者(B2C)> 生活用品メーカー同様、消費者のライフスタイルを把握し、時代にあったサービスを提供する必要がある。 |
<サービス事業者(B2B)> 国内市場規模縮小により、海外展開を図る企業も増加しつつあるが、規模が小さく、国際競争力に欠けがちである。 |
<サービス事業者(B2B2C)> インバウンド需要やインフラ輸出などの新たな市場も生まれている。 かつては安定していた国内需要であるが、国内市場の縮小均衡が進む中で、電力・ガスの分野では小売自由化により、今後競争が激しくなってくることが予想される。 |
B 働きやすさ
次は、B『働きやすさ』の要因を見ていくことにしましょう。
どうせ働くんだったら、快適な環境で働きたいですもんね?
でも、何をもって「快適」とするか、「働きやすい」とするかって、難しい問題だわよね・・・
そうなんです!
Bの『働きやすさ』に関わってくる要因は色々ありますが、主だったものは「勤務地」「勤務時間」「休暇取得」「給与水準」の4つの要素ですので、読者のみなさんは、まずこの4つの要素をチェックするようにされてほしいと思います!!
b1 勤務地
「勤務地」の要素に関しては、転勤の問題を取り上げたいと思います。
まず転勤が多いか少ないかは、事業展開するエリアによって決まってきます。
例えば全国各地に支社・支店を持つ大手企業の総合職では、2~3年おきに転勤があるという方も少なくありません。
もちろん、グローバル展開を行う企業であれば、海外への赴任ももちろんありえます。
一方で、「転勤しない」働き方を選択することも可能です。
『エリア限定職』という言葉をご存知の読者の方も多いことと思います。
これは、転居や転勤を伴わないという条件で正社員採用される制度であり、銀行・証券会社、保険会社などの金融分野、建設業やメーカー・小売業などでも増加傾向にあります。
企業により『地域限定職』や『エリア総合職』『特定総合職』『特定職』『準総合職』と呼び方は様々ですので、企業の採用情報をチェックされる時には上記のワードを注意して確認して頂きたいと思います。
これって、企業ごとに大きな差が出てくるのですか?
ポイントを解説すると、以下のような形かな?
b2 労働時間、b3休暇取得
「残業の少なさ」は、提供する製品やサービスは何であるのか、誰に製品やサービスを提供するのかによって大きく変わってきます。
分かりやすい例が、飲食業界ではないでしょうか?
飲食業界では、顧客に対面接客型のサービスを長時間提供する必要があるため、必然的に従業員の労働時間は長時間化する傾向があります。
また「休暇が取りにくく」、土日出勤も多くなることを覚悟しなければなりません。
同様の傾向は、飲食のみならず、小売店、ホテルといった業界でも認められています。
一方、その対極にあるのが、電力・ガス、鉄道・空運といったインフラ系の業界になります。
これらの業界では、定型的業務が多いこともあり、残業時間は少なく、休暇も比較的取得しやすい傾向にあるとされています。
b4 給与水準
「給与の高さ」と「業界」の関係性は、業界研究 第3回でも詳述した通りです
一般的には従業員一人当たりの売上と利益が給与の高さと直結していると考えられています。
少ない人数で大きな売上を上げるビジネスモデルが確立している業界(例;総合商社、放送)では、給与が高水準になる傾向があります。
またコンサルティング、IT業界、外資系企業は、給与水準自体は高いものの、福利厚生が伝統的な企業(成熟企業)に比べ、あまり充実していないことを指摘することができます。
C 企業文化
はい、一つずつ説明させて頂きます。
Cの『企業文化』とは、企業の経営理念や行動規範などに基づき形成された価値観や考え方、ルールのことを指しています。
一方、『企業風土』は、その企業で働く社員の人間関係をベースに自然に生まれたものとされています。
企業の雰囲気(明るい、元気がいい、まじめ)と言いかえれば、分かりがいいんじゃないでしょうか?
また『組織文化』は、企業文化と定義的には一緒になります。
ただし、企業文化が企業全体・社員全体に共通する価値観や考え方、ルールであるのに対して、組織文化は、あくまでも特定の部署なり、同じチームで働く社員が対象となることが多いようです。
つまり、Aという企業の企業文化は一つなのですが、組織文化はそのAという企業内に複数あるケースが考えられるのです。
最後に『社風』についてです。
社風は社員が感じるその企業の特徴のことを指しています。
企業文化と企業風土がかけあわされることで、社風が生まれると考えられています。
ただし、企業文化と社風は現在では同じ意味で使われることも多いため、それほど言葉の違いに神経質にならなくてもよいように感じています。
企業文化を形作る要素って何なんですか?
Cの『企業文化』は、「実力主義か」「人員構成」「人材活用」「事業方針」の4つの要素で構成されています。
c1 実力主義か?
「実力主義」については、力のある若手や女性を積極的に登用するかどうかにより判断することができます。
a2で述べた若い業界に含まれる企業では、若手や女性を積極的に登用する傾向にあります。
一方、古い業界に含まれる企業(耐久消費財メーカー)や規制のある業界(銀行)では、年功序列職が強いため、それを不満に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ジェンダーの問題に興味・関心がおありの読者の方に紹介したいHPが、厚生労働省の『女性の活躍推進企業データベース』になります。
同HPでは、「係長級にある者に占める女性労働者の割合 」「管理職に占める女性労働者の割合 」「役員に占める女性の割合」を公開しております(サンプルはこちらになります)。
また掲載企業は、12,000社あまりと少なめですが(2020年5月現在)、こちらのHPに積極的に情報開示を行っている企業は、そもそも女性活躍に意識が高い企業とも言うことができると思います。
女性読者の方は、こちらのHPをぜひご覧になって頂きたいと思います!
c2 人員構成
ここでいう「人員構成」とは、企業内の平均年齢や年齢構成のバランスのことを指しています。
これについても、若い業界に含まれる企業では、平均年齢が低く、多様な人材を確保しようとする傾向が認められます。
ITやコンサルティングは、平均年齢が若い傾向にあり、実力があれば大きな仕事を任されたり、積極的に登用される機会が大きいと考えることができます。
また企業ごとにジェンダーのバランス(男女比)も異なってきます。
これについては、先ほど紹介したHP『女性の活躍推進企業データベース』のほか、『就職四季報』、企業の採用サイトでも確認することができます。
c3 人材活用
「人材活用」の程度を推し量る指標は色々ありますが、ここでは、勤続年数の長さの要因を取り上げたいと思います。
勤続年数の長さは、その企業のビジネスモデルや経営者の考え方により大きく左右されてきます。
一定の成果を出すまでに基礎的な研究が必要な企業や、顧客との長期的な関係が求められる企業では、勤続年数が長くなる傾向があります(鉄鋼、繊維業界の企業など)。
一方、プロジェクトの成果と急激な成長が求められるコンサルティング業界では、勤続年数が短くなる傾向があるようです。
力があれば継続的に活躍の場が与えられますが、その分、常に結果を出し続けることが求められるシビアな世界であると言えるでしょう。
また勤続年数の長さは、同一企業でもジェンダーにより大きく異なってきます。
先述のHP『女性の活躍推進企業データベース』では、「男女の平均継続勤務年数の差異」「男女別の採用10年前後の継続雇用割合」の情報を開示していますので、ぜひ参考にされてほしいと思います。
c3 事業方針
「事業方針」も色々な要素で構成されていますが、読者のみなさんに最も注目して頂きたいポイントは、企業の意思決定の早さになってきます。
これも「勤続年数」と同様に、その企業のビジネスモデル、経営者の考え方により左右されてきます。
経営トップが創業者であり、急成長している企業の場合、トップダウン方式をとっていますので、意思決定のスピードが速くなる傾向があります。
裁量は大きく、様々な経験を積める一方、勤務時間が長く、休暇も取りにくくなる傾向にあるようです。
D 成長環境
その通りよ!!
もう一つ、関係する心理学の理論があるんだけど紹介していいかな?
ここで紹介したいのが、『ERG理論』になります。
「この図、何か見たことある!」という読者の方も多いことでしょう。
こちらは、マズローという心理学者が提唱した『欲求の5段階説』をベースに考案された理論です(Alderfer,1972)。
この理論では、人の欲求を生存欲求、関係欲求、成長欲求に大別しています。
マズローの理論同様、ERG理論においても、成長欲求を「もっともレベルが高い欲求」として位置づけており、この成長欲求が、働く上でのやる気や意欲の源となることを仮定しているのです。
これも企業を見る際、重要な評価・査定ポイントになってきそうですね!!!
そうです!
成長できる労働環境にあるのかどうかは、とっても重要なポイントになってくると思います!!
では解説させて頂きますね。
Dの『成長環境』を形作るのは、「裁量範囲」「経験値」「教育制度」「育成方針」の4つの要素になります。
d1 裁量範囲
まず「裁量範囲」については、市場の成長性、業界の年齢、ビジネスモデルなどの影響を受けるとされています。
一般的に定型業務が多く、成長性が低い業界に属する企業(例;鉄道、電力等のインフラ系)では、裁量範囲が大きくありません。
逆に、プロジェクタ型の業務が多く、市場が急速に拡大している分野の企業(例;IT系)では、裁量範囲が大きくなる傾向があります。
d2 経験値
「経験値」については、市場の成長性と業務の汎用性(ある会社で身につけたことが、別の会社でも役に立つかどうか)などで変わってくるとされます。
業界や企業特有の仕事が多い業界(例;鉄道、バス)では業務の汎用性が低いため、前職での経験を転職の際、上手くいかせないケースが多いようです。
d3 教育体制
「教育体制」(人材育成の体制)については、業界の年齢も関係してきますし、人材育成に対する企業の考え方によっても変わってきます。
上記に加え、資本力が高く(売上・資本金が高く)、変動性が低い(ビジネスや技術が変化しづらい)業界に属する企業では、長期的に人材を育成する傾向にあるようです。
d4 育成方針
「育成方針」についても、業界の年齢や前述の変動性、業務の内容によっても変わってきます。
一般的には、様々な経験をつむことができるジェネラリスト型の企業か、業界に特化した専門性の高い経験をつむことができるスペシャリスト型の企業かによって、習得できるスキルは大きく変わってきます。
その業界なり企業で一生働きたいのであれば問題ありませんが、将来的な転職を視野に入れているのであれば、新卒入社で経験できる内容により転職先の幅(選択肢)が大きく変わってきますので、注意が必要になるものと思われます。
その他の要因
A~D以外で、考慮すべきポイントってないんですか?
Cの『企業文化』に大きな影響を及ぼしてくるものがあるんだけど、分かるかな?
経営者の経営哲学よね!!!
分かりやすくお願いします!!!
2.黒髪とすること
3.前髪は作らず分けること
4.ショーパンとミニスカートは原則、禁止とする
5.男友達とのSNSのやり取りは厳禁する
マジムリです(怒)
あなたがこの彼氏さんと結婚したとするわよね?
2.朝食は必ず「和食」とする
3.夕食には、おかずを「3品」作ること
4.家事は全て一人でやってほしい
5.子どもが嫌いだから、出産はあきらめてほしい
地獄行き決定です!!
まぁ価値観と言いかえてもいいんだけど・・・
会社なり経営者の理念や方針次第で、それに合うか、合わないかがハッキリ分かれてくるってことですよね!!
そうなんです!
そういうことになってきます!!
特に、
- 創業者が現経営者である
- 経営者が世襲制である
- 経営者がワンマンで、トップダウン的な企業である
といったときに、経営者の一人の意向が企業全体、社員全体に反映されやすくなります。
もちろん、会社の規模もこれに大きく影響してくるでしょう。
読者のみなさんが今すぐできることとしては、企業のサイトを見るとき、企業の沿革を見るだけでなく、経営者の紹介のコーナーを熟読されてみて下さい。
例えば、トヨタ自動車では、企業情報のトップメッセージにおいて、豊田章男取締役社長のメッセージが公開されております。
上記を熟読して頂くと、豊田章男社長のお人柄や経営に対する思いが伝わってくるかと思います。
合う、合わないを判断するとき、多くの就活生は業界・業種、業務内容と自分との相性を気にされると思いますが、どうか経営者の考え方なりコンセプトとの相性も気にされるようにしてみて下さい。
こうした点にこだわりを持っていただくと、「こんなはずじゃなかった」と早期離職していまう恐れはかなり少なくなるのではないかと思います。
もちろん、企業のHPは、良いことだけしか載っていない傾向にあることも事実です。
それゆえ、企業の客観的な分析や評価が重要となってきますし、別の回で紹介予定のインターンシップやOB・OG訪問などを通して、多角的に情報を収集していくことが必要になってくるでしょう。
パーフェクトな会社は存在しない!?
ようは、A.企業力があって、B.働きやすくて、C.若手・女性を積極的に登用してくれる、D.成長できる会社に入ればいいんですよね!
あなたには、そういうパーフェクトな会社に入ってほしいと思うだけど、数はかなり限られてくるってことも覚えておいて欲しいな・・・
けど、それって、ど~してですか?
片方の要素を優先すると、もう片方が損なわれてしまうって感じですか?
そうなんです、この点を最後にちょっとだけ説明しますね。
給与水準は高い方がいい!
多くの就活生がそう思われることと思います。
しかし「給与水準の高さ」は、労働のハードさと密接な関連を持つ概念とされています。
つまり、給与水準が高い企業では、労働時間が長く、休暇も取得しづらい可能性を指摘することができるのです。
もちろんこのことは、あくまでも一般的な傾向を表しており、全ての企業に当てはまるものではありません。
業界・業種によっても、様々に異なってくるでしょう。
ただ、「(A~Dの)片方の要素を優先しようとすると、別の要素が損なわれてしまう」こともあるという点を、最低限理解しておいて頂きたいと思います。
企業を見る主なポイントは、A・B・C・Dであることには変わりませんが、上記を踏まえ、自分がこの中の何を重要視するのかをしっかりと定めておく必要があるかもしれません。
今回お伝えしたかった内容は、以上になります。
最後に、今回の課題を提示したいと思います。
上述の「企業選びの優先順位」を考えて頂くキッカケや材料にして頂ければ幸いです。
本課題は、『就職活動1冊目の教科書』(就活塾キャリアカデミー, 2019)から引用させて頂きました。
(2)企業選びの具体的基準を表したA~Kの各項目について、あなたが「そう思う」と考える選択肢1つに〇を付けていって下さい。
(3)最後にA~Kの項目について、優先順位(1位~5位)をつけてみて下さい。
課題のやり方ですが、例えばAについては、「お金をたくさん稼ぎたい」「稼ぎはすくなくてもよい」の選択肢の中からいずれか一つに〇を付け、その理由を簡単にメモして下さい(例;「稼ぎはすくなくてもよい」を選んだ場合→「高給だと激務になる傾向があるから」「報酬よりも好きを仕事にしたいから」など)。
上記の要領で、B~Kの項目について、選択肢1つを〇で囲み、その理由を記入していきます。
これらの作業が終わったら、A~Kの各項目の記入内容を見渡し、優先順位のトップ5を選んで下さい(↓)。
今回の課題を行うにあたり、自己分析 第4回で行ったワークシート(<ライフプラン><仕事・生活・人生を考える7つの質問>)も参考になってくると思います。
自分がどういうキャリアを歩みたいと思うのか、そして、どういう人生を歩みたいと思うのかを鑑みながら、課題に取り組んでほしいと思います。
今回の課題は、個別の企業を研究、分析する際の基本的視座を与える重要なものになってきます。
ぜひじっくり時間をとって頂き、課題に向き合って頂ければ大変幸いに存じます。
まとめ
次回は、いよいよ企業分析の具体的方法について解説させて頂きます!
最後までお読み頂き、本当に有難うございました。
>> 07.『企業研究』をやってみよう!
<< 05.『企業分類の方法』をマスターしよう!
- <引用・参考文献>
Alderfer,C.P. (1972) Existence, relatedness, and growth: Human needs in organizational settings. Free Press.
d’s Journal (2019) 企業文化とは?事業成長へとつながる企業文化の醸成方法を事例を交えて紹介
https://www.dodadsj.com/content/190827_corporate-culture/渕上克義・楠見幸子 (1986) 青年期の恋愛関係に関する研究(Ⅱ) 日本心理学会第 56 大会発表論文集 651.
イノウ編著 (2019) 世界一わかりやすい業界と職種がわかる&選ぶ本‘21 ソシム株式会社
就活塾キャリアカデミー (2019) 就職活動1冊目の教科書 (株)KADOKAWA
東洋経済新報社 (2019) 就職四季報2021年度版(企業研究・インターンシップ版)